ビル用マルチエアコン指定製品化ガイド

地球温暖化防止対策や2050年カーボンニュートラル実現に向け、
フロン類など温室効果ガスへの規制や削減に向けた取り組みが国内外で活発になっている昨今。
もちろんエアコンも例外ではなく、環境負荷軽減のために制定された『フロン排出抑制法』において、
目標年度までに冷媒の生産量・消費量を削減(低GWP:地球温暖化係数)する『指定製品制度』が製品区分毎に設定されました。
大体のエアコンは制定製品化への対応が済んでいますが、2025年にはビル用マルチエアコン(新設用)もその対象になり、
R32冷媒に対応していなければ販売・設置ができなくなります。
ここでは、ビル用マルチエアコンの指定製品化と、それによって具体的にどんな影響が及ぶのかを解説します。

フロン排出抑制法?低GWP?

指定製品制度って何?

非常に簡単にラフに言うと、
『今まで普及してたorしている冷媒(フロンガス)はオゾン層を破壊したり高い温室効果があるから、将来的に無くして使用も禁止します。
さすがにすぐはしんどいので製品の区分ごとに猶予期間と、どのくらい環境にやさしいもんを作ればいいのかの指針も与えます。
エアコン製造や販売の元締めの皆さん、もっと環境にやさしい冷媒で猶予期間内に頑張って製品作ってくださいね。』

といった具合に、より環境にやさしい代替品の開発や普及を段階的に促す制度です。

指定製品制度とは

指定製品制度

フロン排出抑制法』に基づき製品製造業者が取組む『指定製品制度』は、フロン類使用製品の低GWP・ノンフロン化を進めるため、家庭用エアコンなどの製品(指定製品)の製造・輸入業者に対して、温室効果低減のための目標値を定め、製造・輸入業者ごとに出荷する製品区分ごとに加重平均で目標達成を求める制度です。
(参照:環境省_メーカー等による冷媒転換 – 指定製品製造業者等の取組み|「フロン排出抑制法」ポータルサイトより)

地球温暖化係数(GWP)

地球温暖化係数(GWP)

https://ac.fj-tec.co.jp/空調用語集/地球温暖化係数/

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指定製品制度の状況

製品区分従来フロン排出抑制法規制商品化済の低GWP冷媒
種類GWP目標GWP目標年度種類GWP特性
家庭用エアコンR410A20907502018年R32675微燃性
店舗・オフィス用エアコン冷凍能力3トン未満
(床置形除く)
R410A20907502020年R32675微燃性
冷凍能力3トン以上
(床置形除く)
R410A20907502023年R32675微燃性
床置形R410A20907502024年R32675微燃性
ビル用マルチエアコン新設用
(冷暖同時・寒冷地・水熱源・更新用除く)
R410A20907502025年

このように空調機は、フロン排出抑制法にて、製造業者に対して低GWP冷媒採用を規定する
指定製品化が順次設定されており、これらに対応していない製品は販売・設置ができない決まりになっています。
そして、2025年度よりビル用マルチエアコン(新設用)も対象となり、R410Aより低GWPのR32への転換が必要です。

指定製品化で

具体的にどうなる?

指定製品化で冷媒がR32に転換することで、具体的にどうなるのか?
実はこのR32、R410Aに比べて冷凍効果も高くGWPも低いですが、微燃性がある為、取り扱いに注意が必要な冷媒なのです。
そんな微燃性冷媒には、それらを安全に正しく取り扱うためのガイドラインが設けられており、
このガイドラインに則った設置・安全対策を求められるのが、今回の指定製品化のポイントになっています。
ビル用マルチエアコンは、JRAガイドラインGL-20を踏まえたうえでGL-16を対策する必要があります。

GL-20

特定不活性ガスを使用した冷媒設備の冷媒ガスが漏えいしたときの燃焼を防止するための適切な措置

このガイドラインは、冷凍能力5トン以上20トン未満の各種冷媒設備において冷媒ガスが漏えいした際に、燃焼を防止して機器を安全に運用するための方法を規定。
(参照:JRA GL-20|一般社団法人 日本冷凍空調工業会HPより)

GL-16

微燃性(A2L)冷媒を使用した業務用エアコンの冷媒漏えい時の安全確保のための施設ガイドライン

このガイドラインは、業務用エアコンに充塡されたR32をはじめとする微燃性(A2L)冷媒の漏えいに対する安全確保のための空調システム選定と施工及び換気などの施工側の対策について規定。
(参照:JRA GL-16|一般社団法人 日本冷凍空調工業会HPより)

フロンガス(冷媒ガス)

フロンガス(冷媒ガス)

https://ac.fj-tec.co.jp/空調用語集/フロンガス/

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ガイドラインによる

安全対策のポイント

燃焼を防止するための適切な措置として、室内毎の設置環境を踏まえた漏えい濃度の計算が必要になります。
この計算をもとに設置の可否はもちろん、どのような対策が必要かが判断できます。

  1. 冷媒系統毎の総冷媒量m(kg)を算出

    m = 出荷時封入量 + 追加封入量

    ※総冷媒量が150kgを超える場合はシステムを変更

  2. 冷媒漏えい時最大濃度Rfを算出

    Rf = m/(A×hs)

    ※安全対策の要否判定をする上で、この計算式が基本になります。

    Rf:冷媒漏えい時最大濃度(kg/㎥)、m:総冷媒量(kg)、A:室の床面積(㎡)、hs:漏えい高さ(m) 

    漏えい高さhsのイメージ

    漏えい高さhs壁掛け形
    壁掛け形
    漏えい高さhs天井吊り形
    天井吊り形
    漏えい高さhs天井埋込形
    天井埋込形
    漏えい高さhsフレア継手使用時
    フレア継手使用時
  3. 結果判定

    冷媒漏えい時最大濃度Rfの結果が、燃焼下限界濃度LFL(R32は0.307kg/㎥)の1/4L(R32は0.076kg/㎥)以下の場合には、安全対策は不要。

    Rf1/4LFLLFL(kg/㎥)
    地下最下層階以外の場合安全対策の設置が必要
    • 検知器と警報装置との設置が必要
    • 換気装置もしくは安全遮断弁のどちらか一つの設置が必要
    地下最下層の場合
    • 検知器と警報装置との設置が必要
    • 換気装置もしくは安全遮断弁のどちらか一つの設置が必要
    LELをこえてはいけない
    ※システム見直し必要

安全対策が

必要な場合の措置

計算の結果、Rf(冷媒漏えい時最大濃度)が規定を超える場合は、遮断装置の設置など安全対策を行う必要があります。

必要な安全対策

必須検知警報設備 機械通風装置 or 遮断装置

遮断装置+検知警報器

遮断装置+検知警報器

機械通風装置+検知警報器

機械通風装置+検知警報器

安全対策

安全遮断弁

原則として最大冷媒濃度がLFLの1/2以下になる位置に設け、検知器の信号によって冷媒回路を遮断します。
設置場所は点検者が点検可能な位置にしましょう。

室外設置の場合

室外設置の場合

室内設置の場合

室内設置の場合

安全対策

換気装置

原則として空調の使用・不使用、在室・不在にかかわらず、
24時間常時運転とし管理者以外が停止したりメンテナンス以外で停止できないようにするか、
冷媒漏えい検知器によって漏えい時に自動的に作動させるよう対応させなければなりません。

必要換気回数の計算

  • n≧50/(G×V)

    換気回数以上の換気能力を満足しなければならない。

  • n≧50/(G×V)-Q/V

    外機処理など、室内ユニットに外気を取り込んだ空気を供給する室内ユニットの場合に限り、その空調機が取り込む外気量を含めて換気回数を決定しても良い。

n:換気回数(回/hr)、G:LFL(kg/㎥)、V:冷媒漏えい空間容積(㎥)、Q:外機導入する室内ユニットにおける外機導入量(㎥/hr)

給排気口設置位置の注意事項

給気開口が天井、排気開口が床面の場合

※1給気開口が天井、排気開口が床面の場合

排気開口が漏えい高さ以上の場合

※2排気開口が漏えい高さ以上の場合

  • 給気開口は室内上部に設け、排気開口は対向する壁面に可能な限り低く(床面30cm以下)する。※1
  • 排気開口を天井近くに設置する場合は、排気開口部を漏えい高さ以下にすること。※2
  • 居室の給気開口と排気開口との距離は、室の四隅など十分離れた位置に設ける。
  • 機械換気装置において排気が居室へ再循環しないよう、給気開口は排気開口から十分に離れた位置に設ける。

安全対策

検知器

検知器の設置が必要な場所は、居室空間内にある冷媒が漏れるおそれのある箇所で、細かい規定も存在します。
また、この検知器の設置は必須安全対策になっています。
検知器を室内に設置する例を見てみましょう。(天井埋込形設置の場合。)

検知器の検出端部を設置する高さは、漏えい高さよりも低い位置かつ、室の床面から鉛直方向に30cm以内。

検知器の検出端部を設置する高さは、漏えい高さよりも低い位置かつ、室の床面から鉛直方向に30cm以内。

漏えい想定箇所の中心から水平距離10m以内に、1個以上の検知器を設置しなければならない。

漏えい想定箇所の中心から水平距離10m以内に、1個以上の検知器を設置しなければならない。

漏えい想定個所室内機、フレア接続箇所
漏えい想定除外箇所ろう付け箇所、ねじ接合継手(ISO14903準拠)箇所

安全対策

警報装置

警報装置の取付概要

検知したものを伝える手段として、検知器とセットで設置しなければならないのが警報装置で、こちらも必須安全対策になっています。
警報装置は検知器からの冷媒漏えい信号を受けて、ランプの点灯または点滅と同時に警告音を発する仕様のもので、自主避難できない人々がいる施設または、不特定多数の人々が自由に出入りできる施設の場合、監視室に接点などにより警報を出す必要があります。

安全対策

インターロック回路

インターロックとは、いわゆる安全装置のことで、決められた条件が揃わないと、機能が作動しない仕組みです。
この場合、安全遮断弁と検知警報器が正常に接続されていないと、空調機が運転しないようになっています。
インターロック回路を組み込むことで、安全対策の設備の未接続や、不具合による問題を防止します。

インターロック回路
  1. インターロックの追加

    空調システムを運転可能とするために、検知器および警報装置、および機械換気装置または安全遮断弁を接続したインターロック回路を構成できます。

  2. 安全対策不要な場合

    安全対策の要否を確認し、不要の場合は安全対策のインターロック機能を現地にて解除できます。

  3. 竣工後のレイアウト対応

    安全対策が不要となり機能を解除して竣工した後、レイアウト変更(間仕切りの設置など)で安全対策が必要となった場合、インターロック機能の復活だけで、再び安全装置を接続できます。

安全対策の

要否判定の仕方

安全対策の要否判定は、部屋の大きさによって変わります。
こちらは、設置する部屋の面積や冷媒漏えい量などから算出することができますが、
扉にアンダーカットを設置するなど『その他の対策』をすれば、先述の安全対策が不要になります。
具体的な例を見てみましょう。

安全対策の要否判定
  • 室外機56kW
  • 室内機天井埋込形×7(漏えい長さ2.7m)・壁掛け形×1(漏えい長さ1.8m)
  • 冷媒配管主管:40m・枝管合計:80m
  • 冷媒R32(総量24kg)
  • 事務所1

    24kg/13m×13m×2.7m≒0.053kg/㎥≦1/4LFL1/4LFL以下のため安全対策不要

  • 事務所2

    24kg/13m×13m×2.7m×3/4≒0.070kg/㎥≦1/4LFL1/4LFL以下のため安全対策不要

  • 会議室

    24kg/6.5m×6.5m×1.8m≒ 0.315kg/㎥>1/4LFL1/4LFLを超えるため安全対策必要
    ガイドラインに従い安全遮断弁または換気装置と冷媒検知・警報器を取り付ける。

その他の対策

対策対応例内容
室容積を大きくするアンダーカット設置想定できる室の床面積を広げ、室容積を隣室と合算することで対象室の許容冷媒量の上限を上げる。
漏えい高さを広げる室内機形状を変更し室容積を大きくすることで対象室の許容冷媒量の上限を上げる。
1冷媒系統の総冷媒量を減らす冷媒系統を分ける14馬力→8馬力+6馬力といった感じに、1系統あたりの総冷媒量を小さくする。
パッケージエアコンへ変更対象の部屋をビル用マルチエアコンの系統から切り離す。

ビル用マルチエアコンの設置

弊社にお任せください!

指定製品化に伴うビル用マルチエアコンの設置は、試算から施工までワンストップで弊社にお任せください

ビル用マルチエアコンの指定製品化について解説してきましたが、複雑な計算やそれを踏まえた機器選定、ガイドラインに則った安全対策など、かなりの難易度になっている為、実際に設置する際は必ず弊社のような空調のプロに相談しましょう。
弊社ではこれまで、高い提案力と工事技術力で数多くのビル用マルチエアコンの施工を手掛けてきました。
通常の業務用エアコンよりも工事も複雑で高額になるからこそ、アフターケアまでしっかりとお客様に寄り添います。
お見積りは無料です。お気軽にご相談ください。

ビル用マルチエアコンについて

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